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 それが食品であろうが、衣服であろうが、棚に飾ってある置物であっても、人が自分の好みによって求めて、そして自分の身近に置いているのですから、そこに嗜好というものが当然現れます。

 私たちは、それらの遺品を手に取り、そして作業を続ける中で、そんな故人のことを考えてしまいます。

 「いったいどのような生活をしていたんだろうか?」
 「これがここにあるということは、故人は○○が好きだったんだなー」
 想いは様々に馳せます。

 人は、社会に出ている時の「表の生活」と、自分の家にいる時の「裏の生活」があります。
 時には表も裏もない人もいますが、ほとんどの人が持ち合わせているものです。

 ゴミ屋敷やゴミマンション現場で多いのは、そこまでにしてしまう人の半数程が、社会的に見ると真面目でしっかりとした人です。
 私の現場経験から言うと、教員や会社でも管理職の人、キャリアウーマンなどと言われる人たちです。
 その他は一人暮らしで、もともとだらしない性格の人のようです。

 前者は、仕事のストレスにより、自宅に帰ると無気力で身の回りの片付けなどをしたくないと考えるのでしょうか。
 特に学校や塾の先生の独身生活者ならば、AV(ここではアダルトもののビデオやDV)やそれに類した本が山のようにあります。
 学校の先生が女性ならば、大量の衣服がそれも袖を通していない状態でゴミの山となっています。
 子供に教育を施す立場の人がと、いつも考えこんでしまいますが、傾向としてはそのような方からの依頼が多いということです。

 遺品整理や不用品整理の現場は、まさに人間模様が見えるのですが、今回の現場は生活感が全く感じられないそんな現場でした。

 駅の近くにぽつんと建った2階建てアパート。間取りは2DK。
 そこに50歳の男性が住んでいました。
 男性は、自室の玄関を出たところで、脳梗塞をおこして還らぬ人となりました。
 遺族からの依頼で、早急に部屋の片付けをして欲しいとの申し出により作業となりました。

 部屋に入ると足の踏み場がないほどの状態。
 普通の人が見ると、「ゴミ屋敷」と言ってしまうことでしょう。
 私からすると、かわいいプチゴミ屋敷状態。

 床面一面に羽毛が飛び散っており、初めは中で何が起こったのか、全くわかりませんでした。
 家財の上にはかなりの埃がたまっており、そんな環境の中で果たして生活を続けることができるのか、疑問は膨れあがります。
 でも、男性はそこで生活をしていたのでしょう。

 遺族側からは貴重品の捜索依頼がありました。
 通常、貴重品はなにがしかの現金はじめ通帳、印鑑、証書、貴金属と発見されるものですが、この現場ではそれらの一切が全く見当たらないのです。
 これも不思議なことで、遺族とは携帯で連絡をとっていたというのに、その携帯はじめ充電器も中にはありません。
 普段手につけていたという腕時計も見つからない状況に、あせりはつのるばかり。

 「こんなケースは今までにないなー」
 「おかしいなー」
と、スタッフ間で声が出てしまいます。
 念入りに家財のチェックをするのですが、最後まで何も出てきません。

 その時、部屋に備え付けの電話が突然鳴りました。

 「もしもーし」
 受話器を手にとって答えた私の耳に、
 女性の声で、
 「○○さんのお宅ですか?」
 「そうですが、どちら様でしょうか?」

 受話器を置く音が響き、そこで電話は切れてしまいました。

 おかしいなと思いつつも作業は終わり、故人のお兄さんに現場を確認してもらいました。
 貴重品については綿密に捜索しながら作業を続けたにもかかわらず、何も発見できなかったことを正直に伝えましたが、二人とも頭を抱えたままの状態です。

 電話の話を伝えると、昨日もお兄さんが30分ほど部屋にいた時に、女性から電話が入った旨を伝えられました。

 生活感のない現場で、想像できることとして、
 「男性はここでは生活をしていなかった」との予測です。

 とある女性と別のアパートで同棲をしており、普段はそこを拠点に仕事にも出ている。
 時たま自分の部屋に置いている観葉植物に水をやりにいっており、その時に倒れた。
 女性は男性が帰って来ないので、心配して電話をしたが、たまたまその電話に出たのが、お兄さんのお嫁さんで女性だったので、アパートに行くことも出来なかった。
 一夜明けても男性は帰ってこないので、引き続き電話をしたが、今度は違った男性(私)が出て、さらに不安はつのった。
 普通ならば、アパートまで駆けつけて様子を確認するのでしょうが、それを付き合っている女性はできなかったのです。
 故人は倒れてすぐに息を引き取ったのですが、一日半後に火葬にふされてしまいました。
 その時そばにいた身内は、お兄さん夫妻とお母さんの三人だけでした。

 愛していた男性の最期に立ち会うことができず、さらにそんな自分の存在も親族に知ってもらうこともできず、その女性はどれほど悲しい思いをしたことでしょう。

 私の勝手な想像ですが、でも遺品整理を行なうスタッフとしては、こんなことまで想像してしまうのです。
 不思議な現場ですが、何か考えさせられるものがありました。

 でも、想いをめぐらして遺品を整理するのが、実は私たちの大切な仕事なのです。

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